医療法人 山本記念会 山本病院

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■ 山本病院80周年記念市民公開講座
増井太朗医師特別講演の質問にお答えします

●メンタルを強くするには・・?

→レジリエンスをどう高めたらいいか・・・心理士さんにご教授いただいたほうがよさそうです。
私見としては、メンタルヘルスに強いも弱いもないと思っています。生きているとさまざまな出来事があります。ライフイベントがあります。それをストレスと感じる時、反応する自身の内面で葛藤したり悩んだりすることもその時々の状況次第です。

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 その人のレジリエンス(はねかえす力)は、年齢や性別、性格や育ち、知性、知能、成熟度、経験、病気、障害といった個人の要因や、その時に支えてくれる人や出来事、ハプニング、これらの組み合わせで、強まったり弱まったりするものだと捉えています。
 職域では「セルフケアができるようになること」をテーマにして教育研修活動に取り組んでいます。全ての従業員を対象としたセルフケア研修です。メンタルヘルスを健全に保つためには、まずは「自分自身のストレスへの気づき」とその時「自分にあった適切な対処方法」ができることが大切です。このスキルをそれぞれが身につけられるように教育研修を行っています。
 具体的には、ストレスの解説や気づくポイント、ストレス対処方法(コーピング)について、或いは、自分自身の内面にあるストレスの感じやすさ(どうして葛藤したり悩むのか)について学びます。また、認知行動療法(自分自身の捉え方や考え方のクセに気づき「物ごとの捉え方や考え方」を模索したり、選択肢を増やしたりして「捉え方や考え方の多様性」を豊かにして、問題を解決したり、変えられない問題に対して「自らが変わる」行動をするというスキル)や、アサーション(忖度しないでお互いにWIN-WINのコミュニケーションスキル)、自律訓練法や瞑想・マインドフルネスといった、多様なスキルやツールを紹介するなど工夫しています。

●メンタルヘルス対策の一次予防(発生予防)対策は?

→従来は、発生予防として主に教育研修が主軸でした。個々人に対するセルフケア教育、管理監督者への階層別教育などです。 職場のメンタルヘルス問題の主な要因には、人間関係のトラブルが多くを占めています。そのため個々人のセルフケアスキルや管理監督者によるラインケアが大切です。

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ラインケアとは、部下の変調を早期に捉えて声かけをするなどして、困りや悩みを傾聴し、早期に職場の原因への対応を行ったり、専門家につないで助言を受けるなどして、部下が病気にならないように努める役割です。また、本人や職場からの相談を受ける衛生管理者や人事労務担当者、労働組合の相談対応者に対しても、関わり方や関係者との連携の仕方といった教育も大切です。彼らは、働き方や働く環境にある課題等に対して、仕組みやルールを変えるなどといった職場環境の改善を促す役割として大切です。しかし、それ以上に有効な活動は、働く皆さん自身でその職場をより良くしていくことです。組織集団にはそれぞれ固有の問題を抱えています。
 講演では時間の関係でお話ししませんでしたが、平成26年に労働安全衛生法が改正され、平成27年12月からストレスチェック制度が始まりました。これは50名以上従業員のいる事業者に対して、年に1回以上職場の定期健康診断と同様に「心理的なストレスの状況を評価する検査」の実施を義務づけられました。
 この「心理的負荷を評価する方法」ですが、一般的には職業性ストレス簡易調査票(57質問票)が用いられています。この「職業性ストレス簡易調査票」は、平成7年から11年にかけて実施された、労働省の「作業関連疾患の予防に関する研究班」ストレス測定研究グループによる研究成果として、現場で簡便に測定評価でき信頼性や妥当性の高い質問票として開発されました。以前から一部の大企業において活用され、メンタルヘルス発生予防の有効性が広く知られていました。  この調査票は個人と組織集団のストレスを簡便に評価するものです。具体的には、個人には「あなたのストレスの状況」という内容で、今の心理的負担の大きさをフィードバックし、自分自身のストレスへの気づきを促し、セルフケアに活用いただくものです。組織集団については、職場の部署毎(10名以上の集団)に「組織の健康リスク」として全国平均との相対評価として数値化されます。各職場毎に数値化された「健康リスク」が見える化されるため、リスク低減に向けた職場環境改善活動に活用することができます。
 このストレスチェック制度の真の目的は、組織集団の分析結果を職場の管理監督者にフィードバックすることで、組織の課題を認識し、部下の皆さんと組織の課題について話し合い、組織のストレス源を減らして働きやすい職場環境改善を計画的にPDCA(Plan-Do-Check-Assesment)という持続的な活動を通じて、健康リスクを低減させて、病気の発生を予防するものです。これは、上手に効果的に活用することが重要ですので、産業医や事業場内の健康管理スタッフが専門家として参画し活動の支援を行なっています。実際に新規メンタルヘルス不調者を減少させた実践活動も経験されます。

●若者のコミュニケーション能力は低い?

→コミュニケーションの能力向上・・・心理士さんにご教授いただいたほうがよさそうです。
 私見としては「若者だから・・」という見方は、もうやめた方がいいと感じています。Y世代(ゆとり、ミレニアム世代1980年生~)やZ世代(1995、6年生~)と言われる現代の若者世代は、デジタルパイオニアやデジタルネイティブと言われ、コミュニケーションは「SNSネイティブ」です。決してコミュニケーション能力は低くありません。

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 むしろ我々X世代(第2次ベビーブーム、就職氷河期、ロストジェネレーション世代1965年~1980年生)よりも、デジタルコミュニケーション(ネット社会での)能力は高いと思われます。コミュニケーションの手段が違うのであって、X世代やB世代(第一次ベビーブーム)以前の世代のほうこそ、あらたなネットリテラシーを向上させる必要があると感じています。
 その意味において、コミュニケーションスキルを増やすべきなのは、むしろ私たちかもしれません。彼らのデジタルコミュニティを私たちが認め、受け入れ、学び、その上で、より円滑なコミュニケーションに取り組んではどうかと考えるのです。
 このネット社会でのコミュニケーションは「広く・自由に・深く」といった多様性の面でメリットとなる一方、学校生活におけるネット社会のように「より狭く・閉じた・デジタル空間での関係性」の中でコミュニケーションを取ることになります。現実世界でも、ただでさえ「狭い」学校やクラスといった関係性にも増して、ネット空間では「さらに閉鎖された」空間です。そのような狭く閉ざされた人間関係性にあっては、同調圧力が強まり、周囲の眼を伺う強いプレッシャーに晒されているようです。自分の考えや主張が関係性の中では相容れない場合、周囲と無理に合わせる必要がでてきます。それは「同調できなかった時」にその関係性から排除されてしまう。ネットいじめやSNSでの誹謗中傷は、あっという間に狭い関係性の中で排除され孤立してしまう。目に見えない「つらさ」を抱え込む危機的な事態を招きやすい、子供社会になっているようです。
 そのような、仲間外れになりやすい環境で、窮屈に中学高校と生活を送っていることを想像すると「自分に向けられる周囲の眼差しや評価に対する過剰な意識、過敏さ」が身についてしまっている可能性を感じます。
 社会に出た後も、ちょっとした誤りや失敗さえも衆目の的に晒され、懲罰的な視線であったり、批判や誹謗中傷の的になるという不安や緊張を常に抱きながら「相手の顔色をうかがい過ぎて」対面コミュニケーションが控えめで乏しいものになっている側面がありそうです。悩める若者に対して「若者側の問題、コミュニケーション能力が弱い」と決めつけるのは短絡的かもしれません。社会の側にいて、先にいる私たち世代がつくっている「社会の雰囲気」は、これから社会に出てくる若者たちにとっては、生きづらいものに感じられているかもしれないのです。  一方、社会に出て自立する過程では、様々なシーンで社会人としてのコミュニケーションスキルやビジネスマナー、モラルが求められます。しかし、バブル崩壊後の会社では、人を育てる余裕はなくなっています。人はコスト(数字)であり、数字を出せる即戦力として、新卒も新入社員研修が終わると、戦力を出すように求められます。
 高度経済成長期までは、年功序列や終身雇用のもと先輩後輩といった上下関係の中で、技術や技能、知識やスキルの伝承の中で「仕事は人を育てる」といった人間涵養の文化があり、社会人としての自立を支えてきました。バブル崩壊後の日本社会には、人を育ててきた職場風土や文化は廃れ「人間として大事なことや働く意味」といったことを教わる場がなくなりました。
 さて、実際には、苦労して就職活動を乗り越えて入社される皆さんの多くは社会人として適応できています。確かに、職場で求められる「報連相」でつまづいて悩むケースも例年あります。しかし、その多くは「つまづかせているのは先輩や上司」だったりします。彼らは1980年代までのモーレツ社員だったり当時のいわゆる「体育会系」といった、古きコミュニケーション文化のままの価値観で「今の若者のコミュニケーションスキルが低い」とぼやいているようです(気持ちはわかります)。
 今の若い世代が苦手(というか非効率だったり不合理)に感じるコミュニケーションを求めている(押し付けている)のは、実は私たち世代かもしれません。私たち世代こそ、コミュニケーションスキルを見直す、世代間のコミュニケーションギャップを埋めるための方法をアップデートする努力が必要ではないかと感じています。
 お互いのコミュニケーションに関する考え方や価値観の違いを認識し、受け入れることか取り組んではどうでしょうか。

●コロナ禍での在宅勤務のメンタルヘルスへの影響は?

→これは、企業の規模や事業所の形態、業種業態によって、在宅勤務のあり様が大きく異なります。そのため健康への影響もさまざまです。メンタルヘルスを含め在宅勤務による健康影響については、今まさに日本産業衛生学会傘下の産業医学推進研究会において、日本全国の様々な企業で活躍する産業保健専門家に対して、健康影響に関する調査が始まったところです。

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 コロナ禍の1年で聞かれた企業からの声として、例えば、首都圏の本社機能であるオフィス事業所では、原則全ての社員が在宅勤務となっていたりします。その場合、労働者側と管理職側それぞれに課題があります。
 労働者にとって、裁量は上がる一方で、自宅でプライベートと仕事との心理的なメリハリをつけ難いとか、ちょっとした相談ができない、同僚との雑談ができないなどの不安や孤独を感じる悩みが聞かれました。また、通勤の負担が減る一方で、ステイホームで外出が減り、気が滅入ったり、身体活動が減り、肥満や生活習慣病リスクへの影響も懸念されています。
 家庭等、同居人がいる場合。人間関係の距離感が変化し、イライラが増えているようです。潜在的にあったDVの表面化や顕在化や、そこまで至らなくてもコミュニケーションの悪化などが指摘されています。
 一方で、大分のような地方都市では、企業城下町だったり企業誘致等による労働集約型の工場を抱える事業所が多いと思います。そこでは、在宅勤務が可能な働き方ができるのは、一部の間接部門(事務所系や技術研究開発系等のホワイトカラー)であって、多くの現場作業者はできません。しかも、そのような間接部門でも現場を抱えている以上、どうしても職場に行かないとできない作業があります。そのため一部の限られた人が週何日かを在宅勤務しているのが実情だと思われます。
 このような働き方は、例えば、週の半分は在宅勤務で残りは出社するなどと柔軟に調整ができるため、好評だという声も聞かれます。このような働き方の柔軟性や多様性はコロナ禍以前から、働き方改革の一環で検討している企業も少なくありませんでしたが、このコロナ禍での働き方の変化が、より働き方改革の推進につながっている面もありそうです。
 管理者側の問題として、勤務の実態が見えにくく勤務管理上の懸念があったり、安全配慮を尽くせない恐れがあることや対面コミュニケーションの減少による職場の一体感の喪失などが指摘されます。相互の関係性が疎遠になりがちで、お互いに仕事が見えにくくなる、仕事の抱え込みやたこつぼ化、相互支援ができにくい、相談しにくい、など管理面での懸念が聞かれます。
 また、評価の仕組みが大きく変わる可能性を秘めています。つまり、働いた時間ではなく、成果に応じた評価を行う方向です。それは労働者にとっては有効に時間を活用できます。成果を出せば、余った時間は自分のために使えることになります。
 しかし、一方で成果主義の強まりは能力格差を顕著にします。これまでの雇用の仕組みは、労働者は一般職として貢献を求められてきました。これはある意味、仕事ができる人やできない人(ただ仕事が合わないだけ)、やらない人、などと多様な従業員集団で、組織としてある程度の成果がでていればよかった。できる人ができない人やしない人の業績をカバーする側面があり、それが許容されていたのです。
 それも、バブル崩壊後は、業績至上の評価制度に変容し今では出世ルートに乗る人は、40歳までに全体の10%程度の人材に絞られています。つまりその他90%は出世できず、昇給テーブルは鈍化します。仕事へのモチベーションはそれなりです。この状況に成果主義が強化されれば、能力差が大きくなり、できる人はより豊かに働きやすくなり、いきいきとする一方、できない人はより貧しくなり働きにくくなり、やりがいを見出せなくなります。職場の中での処遇を含めた「格差」がつきやすく、大きくなる傾向は懸念されます。
 ただ、日本社会の潮流としては、コロナ禍に関係なく日本型の雇用慣行の転換の動きが加速し始めています。理由は、世界の中で日本企業の稼ぐ力がどんどん落ちているからです。まだ日本人の大多数は日本で働けています。しかし、今の状況が続くと日本人も海外で職を探す時代がくるかもしれません。そうならないためにも様々な企業で取り組みが加速しています。先日の川崎重工業といった製造業でさえも、とうとう年功序列制度をやめるという決定は衝撃的でした。すでに多くの企業で40歳までに「ジョブ型雇用(個々の仕事と内容と成果に対する報酬制度)」への転換や選択制の導入し始めました。
 在宅勤務で成果を出せる人と出せない人が明確になってきたとき、できる人を前提に投資や評価をする選別、階層社会に誘導するような傾向は、働く人のメンタルヘルスを壊す方向に向かうことになりかねず大変危惧しています。

●リストカットする人、LGBTQの人との接し方?

→これは専門家や専門医のご教授いただいたほうがよさそうです。
 リストカット等の自傷行為をしてしまうほどの「つらさ」や「いきづらさ」といった当事者の気持ちに寄り添えるといいですね。つらい気持ちを「わかってもらえる人がいる」と感じられるだけでも、何らかの困難さを抱えて精神的に病んでしまった方の気持ちも、ほんのちょっとだけ、ほっとできるかもしれません。

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 一方、LGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、?クゥイ=男でも女でもない性別で括られない)は個性として捉えています。なんらかの”違い”を区別して「特別な接し方」があるわけではないと思います。当事者の皆さんは、この社会で他の人たちと同じように受け入れてもらいたい、”この社会で普通に”過ごしたいと願っていると思います。
 ここ数年で多くの企業が様々な多様性を持つ人が安心して働ける環境を作る取り組みを始めています。特に最近では2015年の国連サミットで掲げられたSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)という世界規模の活動目標に対して多くの企業が取り組みを始めました。SDGsには17の目標が挙げられその中の一つに「5.ジェンダー平等を実現しよう」というものがあります。
 具体的には、ダイバーシティと呼ばれ「人の持つ多様性を相互に受け入れて、誰もが安心していきいきと働きやすい会社にしていこう」を推進する企業が増えています。男女の性差だけでなくLGBTQ、更には外国人といった社会的マイノリティを受け入れる。更には、障害を持つ方や持病や後遺症を持つ方、例えば、不妊で困っていたり、或いは、がんや精神の病気といった慢性疾患などの治療と就労の両立支援など、多様な人たちが協働する今の職場では、お互いを受け入れ、みんなが“普通に会社で仕事ができる”環境を整えていく活動です。
 そのためには、働く皆さんが正しい知識をもってお互いを人間として受け入れることは大切なことだと思います。例えば、野村総研では「ダイバーシティ」を推進する仕組みや体制を整備して活動していますが、そのような企業も増えています。そのような仕組みの中で、社員教育や研修を企画したり、相談窓口となって個別対応が行われています。また、関係部署と連携し、就業規則の変更や、例えばトイレや更衣室など環境を調整するなどさまざまな改善の取り組みを行ったりしているようです。

●メンタルヘルス事例対応での問題点

→事例となった問題点について整理をします。
 本人の生物学的な要因、つまり、病気の診断や治療などについては主治医の先生と連携します。病気や障害の特性、その時々の病状経過などに応じて適切な関わりや配慮などについて教えてもらいます。

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 職場に対しては、社会環境要因について管理監督者や同僚などの関係者から詳しく話を聞きいて確認します。不調のきっかけとなった出来事や負荷について、それがどの程度影響したのか、本人や共に働く周囲の人たちとの関係性等も踏まえて整理します。さらに、本人にとってどのようなインパクトになったのか、本人の心理的な要因について検討します。
 このように主治医を中心とした医療機関等で治療回復を第一に見守りながら、本人が安心して再適応できるように、関係者と連携して心理社会的な要因に対する環境調整を行います。
 一方、会社側(主に人事労務担当者)とは、協働して本人の回復状況や職場環境調整について情報を共有しながら、休職制度や健保の休業補償等の手続きが円滑に行えるようにします。
 このように社内外の関係者が同じ方向で円滑な連携が図れると、適切な調整が行われ問題解決につながりやすいです。一方で、関係者間の中での連携がうまくいかない、足並みが揃わないといった場合もあり、調整が困難となるケースもあります。また、本人が不調にいたる過程で、同僚や上司といった共に働くメンバーとの人間関係がこじれ、感情が入り込んでしまった場合などでは、お互いに受け入れることができず、困難な状況となるケースもあります。
 ただ、大切なことは「本人側に要因がある」とか「職場のなにがしに問題がある(ハラスメントやいじめ、いびり、犯罪行為などは別ですが)」等とレッテル貼りをして、何かのせいに決め込んでしまわないことが大事だと感じています。そのような客観的な視点で、本人と職場、会社それぞれが前向きで建設的な連携が行えるように努めています。

●精神的な悩みに関する相談窓口

→これは病院ほうで佐賀さんや森田さんからご紹介いただくとありがたい